今年の5月くらいの話である。
あれは炎天下のはじまりというべき、初夏の暑い日のことだった。
13km先の渋谷まで徒歩で渋谷に行く企画を自分でしていて、達成2回目の土曜日の正午くらい。
そのころ長距離ウォーキングがエスカレートしてきた時期で、渋谷に徒歩で行くことを目標としつつも、なかなか達成できないでいた。
その前の前の小雨降る木曜日に生まれて初めて自宅から13km離れた渋谷まで徒歩に行くことに成功していて、調子に乗って土曜日も渋谷に行った。
初回は渋谷は駅を素通りして北参道方面に向かい、新宿を目指したが、この日は渋谷内部に足を踏み入れていった。引きこもり時代では考えられないほどアウトドアな行動だ。混雑している雑踏をぶらぶら。
信号待ちをしていた小規模なスクランブル交差点のところで、中東系の外国人に道を聞かれた。何やら紙をもっていて、地図らしきものが英語で書かれている。
それを見て頭がクラクラした。日本語さえ不自由な俺に英語で道を聞いてくる外国人。コミュ障にはあまりに高すぎる試練。物事には段階というものがあるでしょうよ。アリアハン出発していきなりバラモスに道を聞かれた気分だわ。それは言い過ぎか。
アイドンノーで済ますこともできた。
でも、俺は無謀にも何とかしようと、手持ちのiphoneのGPSで調べる。
GPSがあったからというのが背中を押したのだろう。こんな俺でもひょっとしたら役に立てるかも、そう高をくくっていたのかもしれない。
しかし、俺はGPSの使い方をまだ完全に把握してなくて、電子コンパスの存在も知らなくて、向きが表示できることを知らず、方向がわからなくなったら、とりあえず一方向に移動して、位置をいちいち確かめるというアホな行動をしていた。
センター街ストリートと言っていたのでセンター街を探しているのが分かった。
しかし、いざiphoneで調べようにも、店の名前とか(例えばドンキとか)ならすぐに分かるけど、「通り」を調べたことなんてなかったし、通りの調べ方をググる時間もなく、俺はフリーズし、その場に立ち尽くした。頭の中は真っ白だった。ど、どうすればいいんだ・・・
土地勘は全くなく、センター街の場所なんて知らない。なんせ2回目で、しかも1回目は素通りしただけ。実質渋谷内部を探検するのは初めてだった。坂だらけでやたら入り組んでいてGPSでもよくわからんのに、よりによってなんで俺に聞くんだよって思った。
センター街ストリートと連呼していたが、アップルとか1回だけ言っていたかも。
もしかしてアップル渋谷に行きたかったのかもしれない。しかし、電子コンパスを理解しておらず、移動で方向を確かめていた当時の俺には、複雑に入り組んだこの街を指示通りに動く自信がなく、現在地を教えることしかできなかった。
結局、GPSと紙を比べて、指差して「ナウ」と言った。
ナウってなんだよ・・・よく考えたら今って意味じゃん。時間じゃん。場所じゃないいじゃん・・・
後から考えるとめっちゃ恥ずかしかった。
そこを後にして目的地ってなんだろうって巡らせていた。宇多田ヒカルの歌でファイナルディスタンスって歌があったけど、あれ最終目的地って意味じゃなかったけって思ったけど、目的地はディスティネーションだった。
最終目的地はファイナルディスティネーションだ。しかもこのタイトルの映画を俺は見たことがある。しかも、デッドコースターもファイナル・デッドコースターも見た。午後ローで。
ここにいますよ、は、後から調べたらkgYou are here.だった。実に簡単で簡潔な表現だと思った。
英語を勉強しよう。次はリベンジする。その日は本気でそう思った。
でも寝たらそんな思いも頭から完全に抜けていた。