それはもう衝撃だった。まさにコペルニクス的転回だった。頭をハンマーでぶん殴られてもこんな衝撃はないだと言うというくらい精神的ショックを受けている。
俺は今日気づいてしまった。
俺は美人に対して羨望と嫉妬を感じているということに。
気づいたのは、土曜日にも関わらず単独で街を歩いてる美人を見た時。
午後7時。場所は錦糸町の繁華街で、渋谷、新宿よりある種上品な着飾った美人を見かけることがある。
今日もそれは例に漏れず、しかもそれが3人続いた。
距離にして10mないところで。
二人は信号待ちで対岸に、もう一人はトンネルを1人で歩いていた。
その時になぜか、猛烈に凹んだ。
そこから少し離れた場所で向かい側からカップルがこちらへ向かって歩いていた。
男は綺麗な岡崎慎司、女は厚化粧で先ほどの3人よりは劣るが、普通に考えればキレイだった。
普通なら、この岡崎慎司に羨望と嫉妬を感じるはずだ。
こやつめ!こんないい女と毎晩ヤれるんだ。
畜生!羨ましい&妬ましい!
ってな具合に。
でもそうはならなかった。どちらかと言うと男の方ではなく
女の方にそのような負の感情を抱いたのだ。
それに比べたら岡崎へのそれは残滓みたいなもんだ。
もうこう解釈するしかない。
つまり、俺は美人が羨ましくて、妬ましいと潜在意識で感じているということだ。
3人の美人にしてもそうだ。
ああ、この女は、容姿端麗に生まれ出で、生まれたときから皆からかわいいね。将来美人さんになるとか幼少の頃より言われてきたのだろう。ハシカンみたいに。実際にいよいよ中学生からその兆候は現れ、自然の摂理によりクラスのマドンナになり、数多の男子から告白され、その中から美男を選出・標的とし、その見初めた美男に周到に練った計画に従い自分に告白するよう誘導する。彼氏とした後も、とどまることを知らない美への欲求。より広範囲の男性から注目を浴びることを人生の目的とし、その手段としてより洗練された女を目指すため、より美しく見える化粧技術を独自に探求しはじめる。そして高校へと進学する。高校でも自校の男子生徒のみならず、他校生からも着目され、校門で宝塚スターのように出待ちされたり、自然発生的にファンクラブが乱立され、女もその期待に答えるため、更に美の高みを目指す。若年層向けコスメ雑誌のみならず、OL向けも買いあさり、日夜、メイク、ファッションを総合的に研究。卒なく入学した高校でも難なく標的にした美男を攻略・獲得するに至る。美男美女カップルとして、校内のみならず、街に繰り出しても一目置かれる存在として、周囲より羨望の眼差しを浴び、女として見られる喜びを最大限に感じる。原宿に行けば毎回竹下通りでスカウトされるも、将来の明確なビジョンに従い芸能界入りを拒否。大学に入ると、トップの成績で入学した将来性抜群かつ容姿端麗の夜神月を結婚相手にターゲッティング。確実に仕留めるために、これまでの栄光の人生で培われたプライドを捨て交際を願い出て了承を得る。大学在学中にNHKに内定、人気女子アナとなる。
どうせ3人が3人こんな人生を送ってきたのだろう。
こんな容姿に悩みもなく、誰からも優しくされ、常に皆の輪の中にいる・・・
今日出会った3人の女はきっとこんな人生を送ってきたのかと思うと、俺と正反対過ぎて、気が狂いそうになるほどの嫉妬を感じざるおえないのだ。
なぜ、男にそのような気持ちが起きないか。
それは、全然イケメンを見かけないからだ。若年層の美男美女で容姿上位を比較しても明らかに女の方が女性ホルモンやらエストロゲンやらで美しい顔をしているし、化粧で更にブーストをかけられる。ファッションに関しても男と比較して選択の幅が広いし、市場規模も圧倒的に女性優位なので、比較にならない。
俺は一体どこへ向かうのだろうか。自分でも謎である。