近寄って来たもんだから、思わず「かわいいねぇ~」と言ってしまった。
それにしても自分でもビックリするくらいナチュラルにかわいいねぇが出てきた。脳みそから中間業者通さず産地直送で口に運ばれポンと出てきた。たまにこういう奇跡的な大それたことができる時があるのはなぜなんだろうか。これが覚醒というやつなんだろうか。こういうときは普段滑舌の悪い俺だけど、実にスムーズに明瞭でクリアなボイスが出て来る。ワンちゃんに。
飼い主の方が、別れ際にありがとうございますねぇ見たいなことを俺に言った。
妙に近寄ってきたから俺は立ち止まった。
そして、しゃがみこんだら、手袋をした手をベロベロ舐めてきてなついてくれた。好意を寄せられると俺も嬉しいものだ。無垢な存在が甘えに来てくれているのだ。こんな無職、職歴なしの俺に。嬉しいことじゃないか。何の打算なしに駆け寄ってくるなんて。
人間なんて何企んでるかわかりゃしない。
道で俺に寄ってくる人間なんて、英会話教室に打ち込もうとするやつや、怪しげな宗教の勧誘、住宅や高価な壷を買わせようとする俺をカモとしか思っていない連中ばっか。そしてそいつらは人間。そんなやつはものとして扱う。ああ、人の形をしたオブジェが建っとるなぁくらいに思って無視をする。相手が傷つくようにあえて。ガン無視。
ティッシュ配りのティッシュは受け取る。ティッシュは俺にメリットがあるから。鼻紙にも使えるし、食べ物をこぼした時にふける。
こういう打算が透けてみえる連中は大嫌い。一度丸め込まれそうになって怖い目にあったからだ。そういえばそいつらは大体女だった。色魔め。ホント女ってろくな奴がいね~わ。ろくな女は既にできた旦那の元で幸せに暮らしているだろう。
もういい。そういうのは。
ワンちゃんが可愛いという事実がそこにあるだけだ。
以上ワンちゃんをナンパした話でした。
というかナンパでもなんでもないか。