昨日の雨の中を傘もささずに顔をしかめながら歩いていた美人の人。
その人が偶然にも俺の前にやってきた。
ここで声をかけ、傘に入れてあげるなりしたらこれが出会いとなる。
その数少ないドラマのようなシチュエーションを俺はまたもやフイにしたわけだ。
こんな時代だから、拒否られるだろうとか、雨だから急いでいるのに話しかけられるのは迷惑だろうとか行動を起こす前のネガティブ思考でがんじがらめにされる。そしてスルーする。
おれは、雨に濡れながら歩いている彼女をスルーして追い抜いていった。
俺はこの声をかけることができない。
何喋ればええんじゃってなる。
傘を差し出すことに成功したとしても、その後一緒にあいあい傘で歩きながら一体何を喋ればいいんだとなる。
まず、どちらまで?と聞いてバス停だったらまだいいものの、家まで歩くつもりだったら、いっしょに家までいくわけにもいかん(家特定、ストーカー化の可能性を危惧)からまた途中で濡れる羽目になる。だったら俺の行動はおせっかいなんじゃないかとか。
歩いている最中も、梅雨ですね。雨ですね。とわかりきったことを話しても一瞬で話題は終わるし、今日大阪で震度6弱の地震あったみたいですね。みたいなことを言っても俺は大阪に知り合いもいないしいずれにしろ話は広がらない。
職業に関して尋ねれば、こちらにターンが回ってきた時に無職と答える羽目になる。
無言で赤の他人とあいあい傘、シュールでその状況に耐えられそうもない。
少女漫画みたいに傘を渡して逃げるという手もあるにはあるが、iPhoneとAirpodsが壊れちゃうのでそれもできない。
こんな事を考えてスルーした。
コミュ障の俺にはどだい無理な話だ。
店のレジで一言二言言葉を発することはできる。
言い換えれば受け身で一言二言が限界。
自分から能動的に話すなんてことをしたのはいつか覚えていない。
躊躇のハードルがある。
そこを超えることができない。
だから歯医者に電話で予約を取るのも部屋を小一時間うろついた後に勇気を振り絞る必要があった。
電話は嫌い。
声のトーンですべてが判定されるからまだ実際に顔を合わせたほうがマシ。
もし平生から話すことを鍛えていたらこれが出会いになっていたかもしれないなぁ。